18歳 夏 その2
しばらくして敏子が戻ってきた。
「五郎君 大丈夫?」
「ああ このとおり」
とその場で軽くジャンプをして見せた。
足と腕が痛かった。
「無理しないで。腕はするむいているわ」
「すぐ先におそば屋さんがあるからそこに何かあるだろう」
康夫が言った。
「少しなら走れる?」
「ああ。」
五郎は素直に従った。
少し下って蕎麦やの駐車場まで走った。
「腕見せて」
敏子はそう言うと五郎の腕をめくった。
スギトップのジャンバーの破れからすりむいているとは思ったが肘の下辺りの皮が綺麗に剥けていた。
「おお。こりゃ痛そうだ」
康夫が言った。
足の方も擦れている気がしたがジーパンが破けてはいなかったし
ズボンを脱ぐのは恥ずかしかったので「足の方は大丈夫だ」と言った。
「これじゃダメだわ。お店の人に何か借りてくる」
そう言って敏子は店の方へ行って包帯と赤チンを借りてきた。
「しみるけど我慢してね」
「うっ~!!」
しみるなんてもんじゃない痛さに思わず五郎は声を上げた。
「男でしょ。このぐらい我慢して」
敏子の柔らかい手の感触が痛みをやわらげていた。
手馴れた手つきで包帯を巻いて応急処置が終わった。
「家に帰ったら医者に行った方がいいわ」
「ゆっくりなら走れる?」
「ああ」
五郎をはさむようにして3台のマシンは街に向かって行った。
一週間がたち傷はかさぶたになっていた。
敏子から電話が来たのは夜の7時頃だった。
「ねえ。これから出てこない・」
「どこへ」
「市役所の近くのお城の公園」
「話があるの」
五郎は友人の名前を出し「ちょっと出てくる」と母につげた。
車庫からオートバイを出しエンジンに火を入れた。
公園の駐車場にオートバイを止め中に入って行った。
池の前にあるベンチに一人の女性の背中が見えた。
敏子の座っているベンチの横に五郎は座った。
「なに?話って」
「うん」
「実は康夫さんから好きだって言われたの」
「彼とは昔からのお友達でしょ。どう思う?」
一瞬ショックを受けた。
「いい奴だよ」
五郎はそれだけしか言えなかった。
敏子がなんて答えたのか五郎は気になった。
「ふうん~。」
敏子はつぶやいた。
二人は黙っていた。
「ねえ。あそこの岩にわたれる?」
敏子が急に言い出した。
池のなかに1mほどの岩があり岸からは2mぐらい離れていた。
「このぐらい簡単さ」
五郎はそういうと助走をつけジャンプした。
「ほらね」
「私もいけるかしら?」
「やめろよ。落ちると濡れるぜ」
「大丈夫よ」
敏子は五郎のいる岩に向かってジャンプしてきた。
足は届いたが体は大きくのぞけった。
「危ない。」
五郎は手を出し敏子を抱きしめた。
しかし
二人の体は池に落ちた。
「だからやめろと言っただろう」
「ごめんね」
二人の下半身はずぶぬれになっていた。
どうしようか?着替えなんてないし。
五郎は思った。
「大丈夫よ。私のアパートこの近くだから。行きましょ。」
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