18歳 春 。

春とはいえ感じる風はまだ冷たい4月だった。


いつもの公園で康夫と五郎は待ち合わせをしていた。


五郎は駐車場の入り口の近くにCBをとめた。


「康夫はまだだな。」


ポケットから出したセブンスターに火をつけ呟いた。


グローブを脱ぎながら湖を眺めると遠く白鳥の形をした遊覧船が見えた。


しばらくすると下の方からオートバイのエキゾーストが聞こえてきた。


明らかにマルチだと思われるその音だが決して煩くはなかった。


コーナーの立ち上がりからストレートは明らかにレッドゾーンに入っている。


「今日も飛ばしてるなあ」


そのバイクは公園の手前にあるレストラン前の大きなRのコーナーを


大きく倒しながら五郎のいる駐車場に入って来た。


五郎のバイクの横に並べヘルメットを脱いだ。


「どう。今のコーナー決まった?」


人懐っこい表情を浮かべながら康夫が言った。


二人は同じ中学に行っていたが高校は別だった。


康夫は地元の実業高校へ。五郎は隣町の私立高校に通っていた。


一緒に走るのは半年ぶりだった。


「じゃあ。山の上まで上がろう」


五郎が言った。


「いや。ちょっと待ってくれ。」


「えっ」


「もう一人走りたいヤツがくるんだ」


康夫は嬉しそうに答えた。


下の方からオートバイのエキゾーストがかすかに聞こえた。


明らかに五郎達のバイクとは違うその音はすこしづつ近づいてきた。


「2サイクルだな」


「カワサキじゃない」


五郎は思った。


レストラン前のコーナーでギアをひとつ落としそのゴールドのマシンは


左コーナーに入った。


小柄なそのライダーは体を少しインによせコーナーの途中から出口に向け


アクセルを開けた。


「上手いなあ」


教科書どおりのスローインファーストアウトに五郎は素直にそう思った。


駐車場の手前で減速し五郎達の前で止まった。


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ライダーは白いフルフェイスを脱いだ。



長い髪がフワリとおちた。




五郎は訳がわからずどきどきしていた。



「ちょっと前からよく一緒に走ってるんだ。敏子って言うんだ。」



「こんにちは。敏子です。よろしくね。」



と言って手を差し伸べた。



五郎は慌てて手をジーパンで拭き握手をした。



やわらかく暖かい手だった。



「私のバイク煙出るから後ろからついて行くわ」



「じゃあ俺が先に行くわ」



康夫が言った。



3人は頂上に向かって走りだした。





注)
この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。



次回は13日頃の予定です。